月刊公論 夢枕獏 VS 鈴木弘之 ②

「月刊公論 2016 December」にて

作家の夢枕獏氏との対談記事が連載されました。

以下、月刊公論より対談記事を抜粋


歌劇「蝶々夫人」の成功と歌劇「桟橋の悲劇」の模索

鈴木:大元はアメリカからミッションで派遣されたサラ・ジェーン・さんという女性とご主

   人です。本当はアメリカから中国に派遣されたのですが、途中でサラさんが病気になっ

   て途中の横浜で船を降りた事から日本での活動が始まります。その頃すでにフェリスと

   か青山学院はあったようです。それから一旦アメリカに戻って、今度は長崎の鎮西学院

   というところにご主人が校長となってくるんですが、この長崎での話を弁護士で、アマ

   チュア記者として新聞記事も書いている弟のジョン・ルーサーロングに話し、彼は短

   編小説として面白く書いたんです。完全に原作と脚本は時代を変えているようで、獏さ

   んが書いてくださるというときに「どうぞ変えていたいただいていいですよ」という

   気持ちになりました。

夢枕:忠実にと言われたらどうしようかと思っていましたが、自由にやっていいというので

   非常に気が楽になりました。

鈴木:そういうものを調べて深みにはまっていくと、当時の日米の世相からおそらくその頃

   新渡戸稲造の「武士道」がデビューして、あの頃のアメリカでは日本のものを受け入

   れ、面白がる風潮があったような裏づけがやや取れるんです。それで、その原作がヒッ

   トし、それをベラスコというブロードウェイの演出家が照明や音響をユニークな舞台

   作品に仕上げて大ヒットするんです。その芝居がロンドンで公園されてそれを見たプッ

   チーニが「やりたい」ということになったんですが、プッチーニは作品の制作中に交

   通事故になってしまいようやく完成した初演がミラノのスカラ座だったんですが、初

   日の一週間ぐらい前に日露戦争が勃発しているんですよ。

夢枕:あ!そうですか。

鈴木:ヨーロッパの人たちにしてみれば、こんなファーイーストの島国が我が盟友であるロ

   シアに戦争を仕掛けるとは何事だという心情的こととプッチーニへの嫉妬もあって第

   一回の公園はめちゃめちゃになるんです。

夢枕:相当いろんな記事で叩かれるんですね。

鈴木:プッチーニは諦めずに、その後イタリアのブレシアにあるテアトル・グランデという

   劇場でやって成功するんです。

夢枕:内容も訂正してますよね?

鈴木:そう、最近発覚して面白かったのは、「プッチーニはミラノのスカラ座では生存中に

   一度も[マダムバタフライ]をやらなかった」というというタブロイド記事が出ていた

   そうです。

夢枕:結構人間くさい歴史が作られていきますね。

鈴木:そういうことを仕事の合間にちょこちょこと調べて、プッチーニの心意気のようなもの

   を探りながら今度の作品も出来ていくという感じです。実はこの小説が出来たときグラ

   ンドハイアットのチャペルで野中ともよさんが朗読してくださいましたし、オペラ歌

   手の朗読会もしました。次は待ちした先生にご相談して10人ぐらいの複数人での朗

   読会も面白いかな、と思っています。

夢枕:全部、役を振り当てて朗読をするわけですね。是非実現していただきたいですね。

鈴木:年明けかなと思っています。先ほどからプロデュースの話が出ていますけど、やっぱ

   り、いつ、どこで、なにが、どうなるのか、呼ぶ側の想いではなくて呼ばれる側に気持

   ちを汲まないとね。

夢枕:不思議だったのは、この前にやったときに、周りが盛り上がっていたような雰囲気も

   ありましたよね。外務省の欧州局長の方はオペラが好きで「やろうよ」という感じで

   した。

鈴木:林さんですよね。

夢枕:決めた、やりましょう、という雰囲気で話されていたのが印象的でした。

鈴木:結局、ジュンコさんも私も万人に受けるを必要だと思っていないんですが、それでも

   「この指とまれ」で、少しいいねという人よりは、熱烈にいいねという人がグッと集ま

   ってくだされば、1+1が4にもなってくれるという事ですね。

夢枕:少し例えは違いますが、物事が回っていくときにはバカな奴が一人必要なんですね。

   知り合いに地方創生の講演をして回っている鹿熊勤さんという方がいるんですが、四

   国の徳島で料理の彩りに使う葉っぱや花を都市に出荷する「葉っぱビジネス」で村お

   こしを成功させているところとか、色々なところを取材してたくさん村おこしのネタ

   をもっていて、それでいろんな所から「どうすればうちの地域が活性化するか講演して

   くれ」と頼まれるそうです。「うまくいくにはバカな奴が一人必要で、そのバカな奴が

   他の事を全部捨てて、それだけに一生懸命になっているとだんだんその指に人がとまっ

   てくる」と言うんですね。私は指にとまらされた側ですよ(笑)松下さんは何にでも

   好奇心があって、どんどん出かけて行って、仕事が降ってくるんですよ。

鈴木:ある時、アジア作曲家連盟の総会で、松下先生がいろいろ世話を焼いている後ろ姿を見

   て「あ、今人はいい人だな」と思って「こういうのがあるんですけど、どうでしょう

   か」と聞いたら「あ、やりますよ」と返事でした。きっかけは「いい人だな」です。

夢枕:その嗅覚って結構利いていますよね。華道じゃないですけど。

鈴木:そうですね。まぁ、瞬時に見分けるというかね。

夢枕:私は結構松下さんが好きで、「なんかやってよ」と言われるとすぐ引き受けてしまうん

   です。(笑)

鈴木:松下先生もジュンコさんも「もの」をという点ではある種似ているところがあるんで

   すね。ですから松下先生をのせるには「ミラノのスカラ座とお金も集めたよ」といえ

   ばいいんです。でも、どうやってこの状況を打ち破っていくかを考えなければなりませ

   ん(笑)

夢枕:やっぱり締め切りがないとできないですからね。

鈴木:舞台装置はコストの最大要因なので、松下先生には舞台にはタッチしないでいただこう

   と思うんです(笑)

夢枕:舞台装置はジュンコさんの衣装だと思います。結構ジュンコさんを意識して書いた部分

   があるので、ジュンコさんの出番だないう箇所をちょっと仮装パーティーのシーンにし

   てみました。

鈴木:松下先生的には、いいキャストは2年にリーチとか。私としては今のこの時期は幸い

   で、いざ松下先生が動き出すとキャストのギャラがいくら、いくらと計算機がダーっと

   計算を始めちゃうわけですよ。一気に多分億の予算が必要になります。

夢枕:曲ができていないのに箱を決められるのかという問題と、箱が決まらないと作曲でき

   ないというところもありますね。

鈴木:ここは、なんとか松下先生を騙しちゃう(笑)ダメって言われえるかもしれないけ

   ど、嘘の予約だけしちゃいましょうか(笑)

夢枕:私が担当する台本は最初なんです。詩ができていないと作曲はできないので、正月に覚

   悟を決めて時間をとって書きすすめました。

鈴木:松下先生とさんは百戦錬磨で相性はすごくいいし、獏さんがお書きになると松下先生

   も曲のイメージが十分湧いてきてると思うので、あとは締め切り感をどう設定してくれ

   るかですね。今度は草月ホールあたりがいいかなと思っています。

夢枕:私はもう書いちゃったので気が楽ですが、今日松下先生にこの後お願いしたいところ

   です。年内にやってもらわないと、という感じです。

鈴木:それはだいじょうぶだと思いますよ。私もまぁのめり込んでいますから発表しちゃい

   ますよ。

夢枕:それでは是非、草月ホールに電話をしていただきたい。

鈴木:グランドハイアットのチャペルもいいし。藝大のホールもいいですし、できるだけ逃

   げられないような場所を設定するのがいいかもしれません。

夢枕:松下さんは始めると早いですよ。

鈴木:もそうですが、獏さんも飛行機の中でも文章は作るでしょう。

夢枕:飛行機の中で譜面を書いてきてくれたらいいですね。


次回に続く

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