月刊公論 夢枕獏 VS 鈴木弘之 ③
「月刊公論 2016 December」にて
作家の夢枕獏氏との対談記事が連載されました。
以下、月刊公論より対談記事を抜粋
プロデュースも写真も「伝える」こと
夢枕:オペラの話もどうなるか楽しみですが、写真のお話も是非伺いたいと思って伺いまし
た。
鈴木:獏さんもカメラマンになりたかった、って本当ですか?
夢枕:私がお金をかせいだのは文章よりも写真の方が先でカメラ屋でアルバイトをしながら
毎晩写真の現像をしていました。あとは小さな雑誌社で原稿を書いたり写真を撮った
り、全部自分でやっていました。本が売れた時は、出版社を騙して写真集も出しても
らったりね(笑)鈴木さんはどういうきっかけで写真を始められたんですか?
鈴木:ファッションをやっているとファッションショーは必ずやりますよね。ショーにはジ
ャーナリストとカメラマンがいて必ずファッションモデルつまり被写体を撮っていき
ます。ファッションを一番伝えられるのはやはり写真で、そしてカメラです。写真は昔
から嫌いではないので何かの時には撮っていましたし、ジュンコさんとの出会いも大
きいです。ジュンコさんはアートの造詣が深いですからね。
夢枕:そうですよね。先日も作品を見せていただきました。
鈴木:簡単に言うと、私にはなかったアートの芽生えみたいなものは、ジュンコさんの創作
を通してズバリ影響を受けていると思います。素地がなかったわけではないでしょう
が、ファッションショーの本番は撮れないのでリハーサル中を記録的に撮ったりして
いましたが、1996年にキューバでファッションショーをやった時は撮影しまし
た。
夢枕:モノクロですか、今もモノクロですよね。カラーがこれだけ綺麗に撮れる時代にあえ
てモノクロで撮るのがすごいなぁと思いますね。
鈴木:これには理屈があって、大げさに言えば心理を追求しているというか、人間は色で誤魔
化されています。色仕掛けって言葉もあるくらいで、偉そうに言えば、白と黒の世界で
本質に迫るというか、白と黒の世界の方が対象を見極めようとする人間の能力がはっ
きりでますよね。ファッションはあれやこれやで気を引こうとしますが、その逆です
よね。
夢枕:特にジュンコさんは色を全く恐れない凄い組み合わせを平気で展開しますよね。先
日鈴木さんの工事現場の写真を見せていただきましたが、殆どがモノクロです。被写体
にあえて工事現場を選ぶというのも興味が湧きました。この時代に工事現場って、ちょ
っと面白いでしょう?
鈴木:何冊か出してますよ。
夢枕:カラーの写真もありますね。
鈴木:一冊に数枚程度ですがたまにありますね。
夢枕:一つの見開きをカラーの写真でこうせいするのではなくて、同じ画角のモノクロとカラ
ーを入れているわけですね。
鈴木:色は人を戸惑わせますから・・ね。
夢枕:工事現場に特化する理由は何かあるんですか?そそられるというか・・・。
鈴木:鉄骨とかクレーンをみるとゾクゾクっとくるんですよ。それと同時に、私のファッシ
ョンビジネスでは建設現場で工事に携わっている人たちのように命をかけることはな
いですよね。ある種、自分の置かれている環境があまりにも平和ですから、あえて危
険な場所に身を置くことで自分の環境のありがたみを再発見できる機会にもなってい
ます。
夢枕:最初からではなく、やっているうちにそう感じるようになったのでしょうか?
鈴木:先ほどのプロデュースの話ですが、何かを伝えていくという所なんです。ジュンコさん
の才能を皆さんが気付いてないなら伝えたいと思うようになっているとも言えます。最
初の撮影は2006年ですが、この首都高のプロジェクトは用地買収から数えると5
0年ぐらいかかっています。すると22歳で入社した人が退職するまで出来上がってい
ないというご苦労を私たちは知らないわけです。知らないことがあったら知らせようじ
ゃないか、というのがプロデュースの原点だと思います。
夢枕:工事現場に入る時は当然あらかじめ入らせて欲しいと申請しているんですね。
鈴木:勿論事前の申請は必要ですが、きちんと身分が保証されて怪しくないことが大事です。
基本的には工事記録が大前提です。
夢枕:かなり現場の奥深くまで入って撮っておられるので勝手に潜り込んで撮っている写真
ではないですよね。
鈴木:もしかすると自己満足かもしれませんが、写真はメッセージです。言葉もそうですよ
ね。活字も写真も人に知らせ、伝えていくという使命を持っていると思います。写真に
評論とかを。2014年「THE NEXT LEVEL」という写真展をやった時に、ケネディ
ー元大統領の娘さん、キャロラインさんがコメントを寄せてくれました。ニューヨー
クのグランドセントラル・ステーションを撮影したものなんですが、グランドセン
トラルは都市開発で壊す計画があったんですね。それをキャロラインさんのお母さん
でもあるジャクリーさんが大反対運動を起こして残したのです。ペンステーションは壊
してしまいましたが、グランドセントラルは残ったので、その駅の地下の工事中の様子
を撮っている写真展の時に「私の母が一番誇りに思った仕事です」というメッセージ
が来たんです。
夢枕:ほぉ。
鈴木:そういう見方があるのか、と撮っていた自分が驚くことがあります。書いたものに誰か
からラブレターが来ることは獏さんもよくあるんじゃないですか?
夢枕:それは嬉しいですよね。
鈴木:嬉しいし、こんな風に見てくれているんだと想定外の事もあったりします。2011年
に上海美術館で開催した写真展「TOKYO 東京」には中国美術学院の副学長でいらした
宋建明先生が「眼力」というテーマで評論をしてくださいました。こちら側の「表
現」と受けた人の「表現」ですよね。表現はいかに表現を引き出すか。そこに啓発さ
れてこちらも成長していくかなというところがあります。
夢枕:宋建明先生もすごい事を書いていらっしゃいますよね。
鈴木:中国美術学院はG20をやった杭州にあります。
夢枕:写真家としては、今後も同じテーマで延長線上のものを追いかけていくんでしょうか?
鈴木:山はあと一つか二つありますが、登山と同じで体力の限界がくると思っています。ヘル
メットを、カメラを二つ下げて安全ベルトをつける。エレベーターはないでしょう?
夢枕:ということは、自分の足で登っていかなければいけないんですね。四年後のオリンピ
ックに向けて、これからいろんなものを建設していきますからね。やっぱりメインにな
るのは国立競技場ですよね。
鈴木:カメラがいいのは歴史を押さえられるところです。最初の写真集に、峯村さんという方
が評論を寄せてくださったんです。「鈴木さんは面白い才能がある。人と人を上手にコ
ーディネートする」というような内容です。また、絵を描いておられる方がニューヨー
クの写真展を見てくださったメッセージです。「それは確かに大きなコンストラクショ
ン シーナリーのドキュメンテーションであるけど、見えないところで人々のプロセ
スの変容っていうのか、人間への共感ていうのか、あたしたちの社会、現代に対して
揺るぎのない肯定感覚をお持ちなんだろう」というもので、とても印象的でした。
夢枕:いいですね。首都高の橋がこういう風にだんだん寄っていくのがすごく象徴的です
ね。橋ってこうやって造るんですね。両側から伸ばしていって真ん中をつなげる。出
来上がったものを乗せるんじゃなくて、両側から近ずいていって最後はどうするんです
か。
鈴木:最後は間に入れるんですよ。
夢枕:間にぴったりのものを入れるんですか。
鈴木:その誤差が1cmもないからすごいですよね。こんな10mも20mもある鉄骨を1cm
以内の誤差でピシャッと合わせてくるんですよ。
夢枕:最後は多分上から降ろすわけでしょう?
鈴木:クレーンですね。
夢枕:その時に落ちないのかなとか考えてしまいますよね。
鈴木:危ないのは地震です。この写真の時点で地震がくるとまずいですよ。
夢枕:そうですよね。構造計算は完成した状態での強度を考えているわけですから。
鈴木:繋がれば強度はありますが、未完成で地震が想定していません。東京ゲートブリッジ
も東日本大震災のような大きな地震が来た時に繋がって崩落していたかもしれませ
ん。
夢枕:トルコのアヤソフィアみたいなドームも、一番上の石があるからあの形が保たれてい
るわけで、アーチって完成しなければ崩れてしまいますよね。
鈴木:いろいろな苦労があるんですね。本日は有難うございました。
夢枕:こちらこそ、どうも有難うございました。
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