月刊公論 西岡隆男 VS 鈴木弘之 ③
現在発売中の「月刊公論 2017 January」にて
ニコンイメージングジャパンの西岡隆男前社長との対談記事が連載中です。
以下、月刊公論より対談記事を抜粋
鈴木:今日お持ちいただいたこの本が写真に携わるきっかけだったんですか。
西岡:そうなんです、私が写真に関わるきっかけになったのは木村伊兵衛さんの「秋田」だっ
たので持ってきました。これそのものではないですが、この「秋田」というシリーズ
の写真でした。
鈴木:ニコンという会社に入ろうと思った動機はなんですか?
西岡:それは、カメラが好きだったし、たまたま学校の就職に求人が来て受けたんです。ニコ
ンに入った鈴木さんとも知り合えましたし、これが一番根本にあって、いろんな人と知
り合うことができてよかったなぁと思います。実はこれを最初に見た時には思いもしま
せんでしたが、木村伊兵衛さんはその何十年か後にご縁を感じるニッコークラブの二
2代目の会長だったんです。私は6代目で最後の最後で幸せだったと思いました。私の
写真との関係では入り口とある意味出口ですからね。
鈴木:木村さんのご出身はどちらですか?秋田じゃないでしょ?
西岡:この方は江戸っ子ですが、秋田に興味を持たれたそうです。私は大阪の下町育ちでこう
いうところには全く縁のない世界で育ちましたので、それもあったのかもしれません
し、それとこの秋田美人ですね。これはもう衝撃的でした。
鈴木:秋田の人だったらこういう写真は撮らないでしょう。
西岡:やっぱり視点の持ち方が違いますね。そこに何かしら感じるものがあるからこういう
写真が撮れるんだと思います。「灯台暗し」とはよく言ったもので、近くになかなか気
づきません。だから鈴木さんの写真のように、目の付け所が違うからこそ、そういう写
真が撮れるんじゃないかと思います。
鈴木:ある程度経験していないとね。いろいろやって、人がやっていないから俺がやるんだ、
みたいなね・・・。
西岡:そういう意味で詳しくはわかりませんが、おそらくこの「秋田」も地元のことをよく
知った方が案内人としてついて取材をされていると思うんです。だから旅行で撮る写真
と、一連の写真集のために撮影するのとでは、自ずと変わってくるとは思います。ひと
つの作品群にするにはテーマが必要ですよね。
鈴木:私の場合、テーマがあるから撮るんじゃなくてテーマは決まります。撮った時からテー
マが、それこそ写真から始まるんです。何が始まるかはわからないから面白さがありま
す。先ほどのは東京中央郵便局の局長室から見えた東京駅というのがあって、時間が経
過した今企画しているのは、郵便局長室から局長目線でガラス窓から見える東京駅の
景色です。
西岡:それは楽しみですね。
鈴木:それともうひとつ、東京駅側から郵便局を駅長目線でも相互に撮っていますから、
「駅長目線・局長目線」というような写真展が実現できたらいいなと思っているとこ
ろです。撮っていて面白かったのは、そんな時建物が人になって「私達だけになっちゃ
ったわね、工事に乗り遅れて」とか、工事に乗り遅れたというか丸ビルや。他のビルも
出来る中、東京駅と郵便局だけが取り残されていったわけです。そしてそれぞれの工事
が進められていくというので、晴れて「よかったね」という感じになるんですよね。こ
んな風にモノを人間に喩える癖がありますね。
西岡:そのメッセージは是非伝えてください。あとは発表の仕方ですがそれによって伝わり
方が違ってくるかもわからない、という気がします。
鈴木:2、3日前にKITTEに行ってきたんですが、私達はついつい効果的、効率的と言うを考
えがちです。でももう少しアナログで泥臭くこの案内をしていくのもあり、かと思いま
す。インターネット等でバーンと宣伝したら終わりですが、例えばKITTEに来たお客さ
ん達がお勘定の時に何かお知らせの紙を次に期待していく、そういう事での動員がも
のすごくやりがいがあると感じますね。東京中央郵便局の局長というのは当時の副大
臣ぐらいの存在で、歴代の局長室というものの想い出があって、そこの人がまた集うと
いうことをきっかけに出来たら、局長室も歴代の局長さんにも喜んでいただけると思
うので、局長目線でやりたいと思っています。
西岡:そこまで伝えたいことがあるとすれば文章も必要ですね。もし、写真集にされるとし
たらその方が生きるような気がしますね。編集者みたいな言っちゃいけませんね(笑)
鈴木:ああ、そうですね。文章が重要ですね。
「人に愛される人たらし」
鈴木:アメリカ人なら誰でも知っていますが、ジャクリーン・ケネディさんが取り壊した計
画に大反対運動を起こしたのでグランドセントラルは残っているんです。この写真を東
京・六本木のグランドハイアットでやったのですが、キャロラインさんがその時「私
の母が誇りにしていた仕事のひとつでした」というメッセージを寄せて下さり、知ら
しめてくれました。だから、写真をみて構図がいいとか芸術的にいいとがではなく、
写真をきっかけにそこに隠されたものを知らせてもらうというのもすごくハッピーで
すね。
西岡:写真の向こうみ物語があって、そういう広がりがあるってすごい事ですよね。だけど、
そこまで掘り起こしていけたのは、元々鈴木さんの人脈があったからこそですよね。
先程のカタールだと、飛行機の中でたまたま隣になっただけの方とそこまでのつなが
りができたりしているし。
鈴木:カタールガスの社長室に写真をたくさん飾っていただいていますし、毎年、カタール
ナショナルデーに社長が来日してパーティーをやるんですが、お酒を飲まないからさ
っぱりしていて楽しいですよ。
西岡:言葉はあまりよくありませんが、鈴木さんはすごく「人たらし」ですよね。私も最初
は仕事上でのつながりですが、その後特に仕事でつながっていたわけでもないのにこ
うして何となくお付き合いが続いてるというのは何かあるんだなとつくづく思います。
鈴木:男女でいえば「好き」とか「嫌い」ですよね。自分の事を嫌っていない、自分に好意
を寄せてくれている人って、100人中2、3人くらいのものでしょ、それが判明したらそ
れは大事にしますよね。
西岡:それはそうですが、これだけの形に残るような事につながっているというのは、言葉
を選ばずに言えば、いろいろ、鈴木さんのために考えさせるところがあるんじゃない
か、と思います。カタールの方もそうですが、つながりが出来た時に常に先方からお話
が来ていますよね。
鈴木:正直、あまり「させて頂けますか」という投げ方はしません。相手が「ノー」という
返事を出すのがちょっと辛いでしょ、だから大体、「もし宜しければ」とか「ご無理
でなければいかがですか」と言うことですね。カタールの時も大使が心配して下さい
ました。「ホテルのロビーで会いましょう」というので、カタールガスと丸紅の人が一
緒について来てくれて、私も飛行機で1度会っただけで顔もはっきり覚えていないのに
「あの人です、知ってます、カタールガスの役員ですよ」という感じで、皆で一緒に食
事をしたんです。
西岡:何かねぇ、「妙な」と言うと叱られるかもしれませんが、何故相手をそうさせるんで
しょう。写真の話からはズレますがご自分を分析なさったことはありますか?
鈴木:4人兄弟の末っ子で、私が4歳ぐらいのときに父親が亡くなっているんです。そうする
とね、憐れみもあれば、こんなに小さいのにお父さんが亡くなって可哀想にとか、た
ぶん周りの同情を一手に引き受けているんですね。
西岡:同情ではないと思いますけどねぇ
鈴木:結論から言うと、もし子供が生まれたら、とにかく「可愛い、可愛い」と言っておけ
ばグレたりしないと思います。おそらく私はそういう境遇に生まれたので、どうやら人
から愛される局面にあるのではないか、と勝手に結論づけています(笑)こんな話に
なってしまいましたが、今日はどうもありがとうございました。
西岡:こちらこそありがとうございました。
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