月刊公論 西岡隆男 VS 鈴木弘之 ②

現在発売中の「月刊公論 2017 January」にて

ニコンイメージングジャパンの西岡隆男前社長との対談記事が連載中です。

以下、月刊公論より対談記事を抜粋


「知らないことを知らせたいフォトグラファーとしての使命感」


西岡:建築物も、日本橋周辺でもそういう建物はありますが、昔からの物を活かせるとこ

   ろは活かすということですね。最近、こういう取り組みが結構多くなっていますね。

鈴木:最近は、ほとんどガラスとアルミで出来ていて、まだ十分使用に耐え得るビルもM&A

   とかで壊しているのはちょっと惜しい気がします。私が撮ったビルでもM&Aの都合で

   15年で立て直すこともあるんです。いいものは残そうという方向で、アメリカのラン

   ドマークにしておくのもいいんじゃないかと思うんです。

西岡:古ければ良いというないですが。それを簡単に壊すといのは勿体気もしますが「もっ

   たいない」だけで物事を計っちゃいけないのかもしれませんね。

鈴木:丸の内で撮っていても新聞でA社とB社が合併する記事を見たら「このビルももしかす

   ると」と思いますよ(笑)

西岡:実は、当社の本社が移転したのもそれなんです。取り壊すからって・・・。

鈴木:東京中央郵便局は、新築の超高層ビルと一体となりながら旧建築の一部が保存・再生

   されて「KITTE」という商業施設にもなっています。その中に「旧東京中央郵便局長

   室」が残って。最初に東京駅をと思ったのは、中央郵便局を撮っている時に局長室から

   東京駅の工事が見えたのがきっかけでした。

西岡:鈴木さんは広く情報網をお持ちなのにそれまでご存知なかったんですか。意外だな。

鈴木:その後、ある会でJRの工事関係の方とお会いして、東京駅を撮らせていただきたいと

   お話をしましたが、JRは撮影のハードルが高いので驚きました。

西岡:そうでしたか。鈴木さんの人脈でJRさんから撮影のお話があったんだと思っていまし

   たがそうじゃなかったんですね。

鈴木:様々な工事現場を撮ってきたきっかけは偶然の出会いです。カタールはサッカーのアジ

   アカップを観に時に、たまたまご縁のある大成建設が飛行場を建設しているというの

   で、大使と一緒にサッカー観戦をして帰ってきて、その帰りの飛行機で隣り合わせたの

   がカタールガスの方で、ペンをお借りしたお礼に写真集を差し上げたら「今度カタール

   に是非我が家で一緒に食事をどうぞ」とお誘い頂き、カタールの飛行場の写真を撮っ

   たが故に、もう一回撮ろうというご縁ができました。その頃、東日本大震災があって

   カタールは実に100億円の支援をしてくれたのですが殆どの日本がそれを知りません。

西岡:そうですか。私も知りませんでした。

鈴木:フォトグラファーとしては「皆が知らない事は知らせたい」という気持ちがあります。

   ラモスの「ドーハの悲劇」の時に行った頃のカタールは何もない最貧国でしたが、中

   部電力と丸紅が発電事業をやった事で発展して現在のカタールの富がある。そのお礼

   に東日本大震災の被災地を支援したんですが本当にみなさん知らないんですね。

西岡:台湾が300億円の支援をしたことは話題になりましたがカタールの知りませんでした。

鈴木:もうひとつ、カタールの富の源泉ともなったカタールガスタンクを日本に知らせるた

   めにも、カタールガスのタンクを写真に撮って日本の皆さんに支援してもらったシナ

   リオをお知らせという思いから写真展を考えました。日本とカタールの国交樹立40周

   年記念イベントで「カタールから100億円の寄付を受けている」というメッセージを加

   えて写真を展示しました。2011年3月の震災の後5月には上海美術館で写真展の予定が

   ありました。

西岡:開催なさいましたよね。

鈴木:ご協賛頂いてやりました。私の写真展で「被災地復興支援感謝」というメッセージを

   揚げました。もともと「蘇生東京」というタイトルだったんですが、東京が壊れちゃ

   ったと思われないように「TOKYO 東京」というタイトルに変更しました。それで、写

   真展がうまくいったお礼には「ありがとうトモダチ作戦」がいいと思ったんです。外務

   省の知り合いが「鈴木さんという工事現場を人がニューヨークに来ますよ」と当時川

   崎重工の現地社長だった岩崎さんに話したら「グランドセントラルとグランドゼロ、

   写真撮りに来ますか?」って訊いてくれたので、そんなチャンスありませんからね、

  「撮ります」とヘルメットをかぶって行きました。

西岡:つながりつながって行ったわけですね。

鈴木:そうです、狙いはとにかく「ありがとう」のメッセージなんです。トランジットミュー

   ジアムという日本のJRのような所から「写真展を2年後にどうか」と言って来たんで

   す。「我がグランドセントラルは100周年を迎え、6つの大きなイベントをやりました

   が最後に日本のフォトグラファーによる我々の現場の写真です」というメッセージを

   ニューヨークタイムズに出したんす。

西岡:実にスマートですね。

鈴木:そうなんです。出し方がカッコよくて非常にニュース性もありましたし、会場もエスカ

   レーターを上がってすぐそばなので、約10万人も入っているんですね。上海とニュー

   ヨークでやっているので、そこで中国人とアメリカ人が写真を見ている後ろ姿は日本人

   には見られない感じがしました。

西岡:そのエピソードを、大手町で写真展をされた時に日本の人たちはどうして作品にもう

   少しきちっと目を向けないのかという話をした記憶が呼び起こされました。

鈴木:その時西岡さんに「カメラの性能と売り上げは世界一でも、観るを育てていかない

   と。カメラを売るだけでは困りますよ」と申し上げましたね。

西岡:対談のはじめに「ファンであり応援団のひとりだ」と、その作品が日本の中でもう少

   し知られないのかなというのが自分自身としても悔しくてね。去年でしたか、銀座で

   ギャラリーでの写真展をやっていただいた時に、あれはねぇ、もう少し集客しかるべ

   きだと思いました。あの様にひとつの写真展を人に見てもらって日本の写真好きの人

   達に知ってもらうことが、もっとあっていいと思います。例えばカタールの100億円の

   支援をお礼の気持ちもあり、あるいはそれを多くの人に知ってもらいたいというとこ

   ろから発しているわけですから、その鈴木さんの想いを現在の私の立場でどれだけの

   ことができるかわかりませんが、もう少し知ってもらいたいという思いが未だに消え

   ません。

鈴木:ありがとうございます。

次回へ続く




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